学校給食を考える15

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 「学校給食を考える」は、弊社70周年を期して創業・創刊の起源のひとつである学校給食を考え直し、認識を高めてもらい、都道府県の学校給食関連企業のコミュニケーションの一助となるため2020年1月に連載を始めた。過去14回では、学校給食の生い立ちや歴史的背景、全日本パン協同組合連合会加盟の都道府県パン・米飯協同組合理事長等における現状と将来展望などを掲載してきた。
 15回を迎え、これまでの掲載内容から、共通する問題点や課題、将来のパン食普及に必要な取り組みなどの全体像がぼんやりと浮かんできた。今後も同連載を継続する中で、未来のパン食普及に繋がる学校給食事業が活性化し、若年経営者が積極的に参入したくなる業態とするため生の声を掲載したいと考える。
 そこで今回は、全日本パン協同組合連合会会長、兵庫県パン商工組合/協同組合理事長でニシカワ食品M代表取締役社長の西川隆雄氏に、課題解決に向けた取組策や学校給食事業が未来のパン食普及に及ぼす可能性などを聞いた。

《学校給食のはじまり》
 終戦直後の食べるものがなかった時代、今までパン製造を経験したことがない人を含めてパン製造工場を立ち上げ、日本の未来を担う子どもたちに昼食を提供するためにパン給食が始まった。そのことを学校関係者や保護者にも認識してもらわなくてはならない。学校給食パンには、大志があったことを再認識する必要があると思っている。パン製造工場を勝手に立ち上げ、営利目的で教育委員会に売り込んだのでは決してない。
《米飯給食導入とパン提供業者》
 米飯給食は、1976年に始まった。米の余剰に頭を抱えた現農林水産省は、学校給食に着目し、学校給食を担当する現文部科学省の教育委員会と協議し「小麦粉のパンに米粉を配合して学校給食パンを作る」という結論を導き出した。しかし、当時の全パン連会長が「そのようなパンは技術的に製造が不可能」と拒否したため、妥協案として週に1回だけを米飯給食にし、従来パンを供給していた業者に米飯給食の生産を任せるという約束で、給食用パン供給業者(全パン連)と合意した。しかも、全パン連に加盟している業者のみを対象にして、設備機械購入には国が一部負担するという条件まで盛り込まれた。これが、現在に繋がる米飯給食台頭のきっかけで、パン供給業者にとって先々に弱点を生む選択であったと思っている。当時の背景や影響力を鑑みると合意した全パン連を責めることはできず、教育委員会も最大限の譲歩をしてくれた。ところが結果は、その後も米飯給食が徐々に増え続け、今や全国平均で米飯給食がおよそ週4回までになってしまった。
 パンは、外国産の輸入小麦を原料にしているため、日本の食糧自給率向上を視野に置くと相反する勢力となる。各都道府県でパン給食の国産小麦化が始まって久しいが、将来の日本を担う子どもたちには、全てのパン給食を国産小麦化することが必須である。
 学校給食は、教育の一環という位置付けで文科省が担当する事業だが、農水省の意向に大きく影響される。そのため、農水省が納得する取り組み策を全パン連も掲げなければならない。学校給食を守り、将来における可能性を引き出すことを考えると、パン産業振興議員連盟の力も借りなければならない。パン給食の回数増を訴えるのは、直接的な関係はないが農水省であることに間違いはない。
 70余年に亘り、学校給食に携わってきた給食供給業者に対して、何の通達も発せず勝手に変更されてしまうことに対して、意義を申し立てている。供給業者は70余年間に3〜4人程度しか事業継承が行われていないため、学校給食の生い立ちや制度の詳細がほぼ正確に引き継がれていると考えて良いが、文科省の給食担当者は、1〜3年で交代するため、交代の度に、供給業者側から制度の正しい引き継ぎが行われているかという牽制をしなければいけないと思う。最初は、全国統一の制度であったにも関わらず、自治体によって微妙な解釈の違いも発生しているため「都道府県によって事情が異なる」という結果になっている。また、栄養教諭や給食調理人、保護者との力関係によっても差異の大小が生じている。加えて、基本的な学校給食制度の運用と時代背景に沿った改定の打診も必要になる。
《コロナ禍の影響》
 3月の学校給食費返還事業等による補償金支給、4・5月の地方創生臨時交付金、持続可能給付金、雇用調整助成金などにより、新型コロナウィルス感染拡大防止の影響で倒産や廃業に追い込まれた学校給食供給業者は全国的に極めて少ない。コロナ禍前と変わらず、将来に向けて給食事業を継続できるのかという心配の方が強い。
 2020年の学校給食パンの総生産量は20629トンで、2019年比マイナス14.6%。この数字には交付金等が含まれていないため、平均してほぼ昨年並みの収入が得られたものと考えられる。
 今回は、コロナ禍を通じた勉強の機会だったが、全パン連をはじめ都道府県の理事長や担当者などの当事者が、様々な政府関連の助成金制度を知り、運用可能な制度を摂り入れなければいけない。また、平準的な対応策レシピを作成しておく必要もある。
 昨年12月、都道府県のパン組合と各学校給食会が取り交わしている契約書の片務的不平等契約が判明したため、契約書に「発注した限りは支払いの義務が生じる」という文言の追記要請を全パン連で決めた。
《課題を解決するために》
 様々な取り組みをしていても、どこかで諦めている雰囲気は拭えない。根本は、少子化で児童・生徒数が減少し、将来においても増加することがなく、学校の再編成などで給食の食数が恒常的に減少しているため。  前述の経緯から、学校給食パンは守られるべきものであり、制度自体は当時から変更されていないにも関わらず、パンと米飯の提供回数が逆転していることに疑問を持たなければいけない。仮に米飯事業が公的新設工場に移管されると、会社運営が困難になり、パンも提供できなくなる。教育委員会などには、その仕組が理解してもらえないようで、感覚や認識が異なることを前提に各種の交渉事に臨まなければいけない。そのようなことを知っておくことが自己防衛に繋がるように思う。
 全パン連加盟組合員は、パン作りを愛するが故に取引や事務手続きに疎く、日常業務に奔走しなければならない理事長も多いため、少なくとも事務局や専任担当者が現状を熟知する必要がある。事務局員は、理事長や全パン連の方針を咀嚼し、必要な事象に対して調査や研究を行う参謀的な役割を担わなければいけない。
《学校給食にできること》
 土曜日給食は、全国各地で持ち上がるが雲散霧消してしまい、実現には至っていない。朝食は子どもたちの健全な発育には不可欠だが、食べない児童・生徒が多いようで、信頼性は不明瞭だが偏差値にも影響しているというデータもあることから朝食給食の必要性を感じている。
 全パン連給食委員会で検討する価値がある取り組みで、是非成功事例を作りたい。学校給食製造工場は、食数減少で閉塞感が増し、将来に対する不安が増大しつつある。土曜日の1食や毎日の朝食は、前向きな考え方を持っている経営者にとっては有難いこと。昼食以外のパンや米飯の需要を創造することは、現状の給食供給業者なら対応が可能で、事業継続に対する見通しが立つ。
 しかし、大きな問題が立ちはだかる。それは、教育委員会や学校給食会が給食供給業者の提案を簡単に受け入れないこと。仮に受け入れられたとしても運用開始までに相当な時間を要し、民営では思い付かないような障壁が生じる。パン製造工場のように365日24時間稼働している職場なら生産量を増やすだけのことは容易だが、新たに早朝の仕事ができる学校などは、働き手のことから考えなければいけないため、簡単なことではない。
 学校給食の今後を考えると重要な取り組みで、全パン連での提案は難しくてもパン食普及協議会や学校パン給食推進協議会から話を持ち掛けるという方法もある。パン食普及協議会・学校パン給食推進協議会ともに母体は、日本パン工業会と全パン連であるため、パン業界としての提案になる。「日本のパン屋が朝食摂取を手伝いましょう。子どもたちにきちんと朝食を摂らせるために頑張ります」というフレーズが考えられる。すぐの実施は難しくても長期計画で訴え続けることが重要だと思う。これが、学校給食供給業者の明るい未来に繋がり、希望が見えると若年層の事業継承も夢ではなくなる。
 また、今の子どもたちの食事にパン食が増えることにより、パン食に慣れ親しみ将来も安定的な生産増が期待でき、パン業界自体の活性化も同時に図れる。提案のしかたは、考えなければいけないが、パン産業振興議員連盟会長の中曽根弘文参議院議員や幹事長の渡海紀三朗衆議院議員に意見を求めて政治家としての考えを聞き、給食の現場で働く栄養教諭の声も聞いてみたい。パン業界以外に朝食や土曜日昼食の重要性に触れている業界を聞かないないため、アドバンテージになるかも知れず、高齢者雇用機会拡大で高齢化社会に貢献できるかも知れない。
 給食供給業者の提供能力や設備、配置人員を考えると、少しは無理をしなければならないが、決して不可能な新規事業ではない。それ以上に光明が見えることの方が重要で、何をするにしても自分たちが努力して苦労しなければ明日を切り拓くことはできない。努力する気持ちや苦労を惜しまない心構えがあっても、食数が減少すると、フィールドさえなくなりかねない。
 給食供給業者が学校を通じて、子どもたちや保護者に喜んでもらいたい。この内容が実現すると、子どもたちの昼食を担っていた給食供給業者は「子どもの食事を守る仕事」に変わる。長期計画であるため、全パン連の次世代役員に引き継ぎたい。今のところ朝食給食と土曜日給食の二つだが、見る目を変えるとさらに可能性が拡大するかも分からない。まだまだ学校給食の可能性が消えた訳ではない。夕食も含めて「子どもの食事は学校給食供給業者に任せる」と言われる業態を目指したい。

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西川氏