学校給食を考える22

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 学校給食における組合の現況やコロナの影響、学校給食事業の将来展望などを東京都学校給食パン協同組合理事長の宮崎宗一郎氏と、広島県東部パン組合理事長の廣川徹氏に聞いた。

【東京都】
《組合の歴史》
 東京都の組合発足は1955年1月24日。学校給食や組合の歴史で、私が思う大きな出来事は、学校給食に米飯が1976年に正式採用されたこと。それまでも米飯給食は若干あったようだが、1976年が学校給食のターニングポイントだと考えている。この時点で145社が組合に在籍していた。以降減少を続け1981年に128社、1993年に63社、2012年には25社となり、現在は16社18工場で組合活動を維持している。
 東京都学校給食会は、米飯給食の取扱いを行っているが、パンと米飯を提供する指定工場は、現在1社(Mイチマツ食品)のみで、23区部は自校炊飯、26市部は自校炊飯もあるがセンター校もあり米飯を外注している学校もある。当組合の米飯提供構成比は、東京都全体の1割にも満たない少量になっている。
 東京都全域の児童・生徒数は82万1千人。学校数は小・中学校と一部の高校等を合わせて1873校。年平均約190回の給食提供になるため、総食数は約1億5600万食。そのうちパンは平均週に1回で、米飯が3.5回、麺が0.5回。
《新型コロナウイルスの影響》
 3月分の学校給食費返還事業等では、全組合員を対象に手厚く補償してもらい、東京都学校給食会をはじめパン産業振興議員連盟からの力添えなどに対して、改めて御礼を申し上げる。4・5月分の交付金は、ほんの一部を支給してもらったが、ほとんどもらえなかった。しかし、地域によって多少のバラツキはあるが、全体の傾向として7・8月の夏休み短縮や学校行事の中止等で、沢山のパン給食の注文がいただけた。結果として、コロナが原因で会社運営に決定的なダメージを受けたという組合員はいない。
《コロナを通じて感じたこと》
 新型コロナウイルス感染拡大防止が全国に波及したため、インフルエンザ感染が例年に比べ非常に少なく、インフルエンザによる学級閉鎖はひとつもなかった。予防接種の浸透もさることながら、改めてマスク着用や手洗い励行などの基本的な衛生管理による予防効果を実感した。食品に携わる仕事であるため、普段の衛生・体調管理を徹底することにより、パン製造業者はインフルエンザに感染しないような気がした。冬場の学校給食提供数が増えたのも、インフルエンザによる学級閉鎖がなかったことが影響している。
 学校給食の提供は、都道府県ごとに契約形態そのものが異なり、一概に契約条件の良否を問うものではなく、学校給食会と契約していたが故に、3月分の補償が受けられたと思う。少なくとも、東京都でコロナが原因で廃業に追い込まれた組合員は存在せず、大きなダメージも被っていない。7月以降の給食注文の増加に対して感謝するべきだと思う。
 今年度は、Mイチマツ食品に限っていうと、ほぼ一昨年に戻っている。学校行事の中止等による給食機会の増加は続いているが、特に数字には表れていない。街中の飲食店では、依然として厳しい業況が続く中、いち早く学校給食に関しては抜け出すことができた。そのため、既にアフターコロナの状況だといえるのかも知れないと考え、学校給食の基本である衛生的で美味しいパン・米飯の継続提供を主軸にしている。ただ、ワクチン接種や疑わしい段階でのPCR検査については、組合や会社として積極的に行うことを推奨し、クラスターにならないように呼び掛けている。コロナ感染者を出さないことが望ましい。しかし、これだけ感染者が増えると感染者は出たけれど感染拡大を防ぐことが、対策として万全だったといえる。今後も現在の対策を徹底して行いたいと考える。
《朝食・土曜日給食について》
 昨年は特殊な条件下ではあったが、一部の地域で土曜日授業が実施され、給食も実施された。今年は、全ての学校で授業が平常時に戻り、昨年の土曜日給食は限定的なものになった。
 朝食・土曜日給食が全国的に広がると良いと思う。何事も全ての足並みが揃うまで待っていると前には進めない。様々な制約があっても試験的に始めることで、最終的に給食提供業者の利益に繋がることを考えなければいけないと思っている。私も機会があるたびに朝食・土曜日給食の話をしている。予算組み等が最もネックになると考えられ、仮に制度が開始されるのであれば、1年間程度は無償で実施したいと考えている。しかし、食材費以外の経費も発生するため、さらに具体的な方法を検討したい。
《塩分「0」の学校給食パン》
 塩分「0」の学校給食パンは一部限定。基本的な基準の食パン・コッペパンは1.7%。元々パンの種類ごとに塩分濃度は異なっていた。その中で、特に減塩に取り組みたいという栄養教諭の要望に応えるために無塩パンをバリエーションとして作った。平均で塩分濃度を低くするのではなく、1カ月に1度無塩パンを食べることで、平均して0.5%程度の塩分を減らすという試み。概ね好評に推移しているようだ。無塩パンを1年間使わない地域がほぼなくなっており、時間経過とともに拡大すると予測している。
《学校給食会との望ましい関係性》
 コロナに関しては沢山の人に汗をかいていただき、多くの組合員が救われ感謝している。今まで良好な関係を築いてきた結果の現れだと思っている。今後も、今までの関係を一層発展させ、車の両輪の関係性でありたい。
《給食事業の将来展望》
 学校給食制度がなくなることはない。最終的に、必要な食数を製造する量だけの会社が残る。必要以上に残ることはできず、足りなければ供給できなくなる。少子化がさらに進行するため、減少傾向のスピードが変化することはあっても食数の減少に歯止めがかけられない。東京都は、他道府県に比べると少子化は緩やかだが、確実に進んでいる。
 衛生基準は、私の記憶にある工場内とは格段にレベルが向上しているというものの、今後は益々厳しくなると予測され、基準を満たすことができない工場は自然淘汰されるだろう。  生き残れない会社が、必ずしも規模の小さい会社とは限らず、中堅規模でも大きな事故を起こすと経営難に陥る可能性も高い。また、今まで学校給食事業を行ってきたという既得権のようなものは、給食を食べる児童・生徒には全く関係がなく、現在の給食提供業者が近い将来、総入れ替えになっても何の不思議もない。東京都の学校給食が始まって約70年間、既になくなった企業も含め、努力を積み重ねてきた結果が「今日」だと考えるため、学校給食を撤退するにしてもハッピーリタイアできる仕組みを構築したいと考えている。

【東京都学校給食パン協同組合】
〒171-0051東京都豊島区長崎1-18-2眞畑ビル101号
TEL03-3554-2544
FAX03-3554-2496


【広島県東部】
《組合の歴史》
 組合の創立は1954年8月9日。学校給食制度が始まってから暫くして発足した。当時広島県には、北部・南部・西部・東部の4組合があったと聞いており、現在は2組合に収斂された。名称の変更はないが、10年ほど前の法改正により任意組合に変更した。組合員同士は、これまで大きなトラブルもなく、協力的に安定的な学校給食の提供に尽力している。組合として存続できているが、組合員の減少が顕著で運営は厳しい。  広島県東部パン組合は、福山市・尾道市・三原市・府中市などを供給エリアとしている。北部は、広島県パン工業協同組合の供給エリアになっている。以前は、納入が不便な地理的条件であったが、高速道路の開通により、大幅に改善された。
 組合員は14社(14工場)。そのうち、13社が学校給食に携わり、1社は卸を中心にした製品を製造している。リテイルベーカリーを単独で展開している会社は少ないが、工場の一角に店舗を構えて市販パンを製造販売している工場が多い。
 パンの提供回数は、ほぼ週に1回。市の方針や歴史的経緯から尾道市は約2回だが、東部地区全体としては限りなく1回に近い方向に進んでいると思う。
《新型コロナウイルスの影響》
 3月分の学校給食費返還事業等は、全組合員が補償金として約9割を支給してもらい有り難かった。パン産業振興議員連盟の力添えに感謝している。4・5月分の交付金は、尾道市・三原市が支給されたが、福山市・府中市は支給されなかった。自治体によって解釈の違いや給食提供体制に対する認識の差が生じていることに問題があると思っている。しかし、7・8月の夏休み短縮や学校行事の中止等で給食提供機会が増えたこともプラスに作用し、4・5月分の機会損失の一部ではあるが取り戻すことができた。そのおかげもあって、当組合員にコロナが原因で廃業した事例がなかったことは幸いであった。
《コロナを通じて感じたこと》
 学校給食会との契約や市・県との関係性が注目されつつある。学校給食制度についてパン組合が考える方向性と学校給食会や市役所・教育委員会が思っている方向性が違っているように思われ、今後信頼関係を強化する必要があると思う。懸命に学校給食を提供しているにも関わらず、将来が見通せないようにも思う。
 反面、衛生的な取り扱いや手洗い、うがいなどを皆が真面目に行うようになり、風邪ひき、インフルエンザに罹る人もいなくなって、コロナの1年間は健康的に過ごすことができた。気を付けさえすれば今まででもできたことが疎かになっていたのだと感じた。コロナとは直接関係ないが、異物混入などにしても本気で廃絶する取り組みが必要で、そうすることによって異物混入件数も大幅に引き下がるのではないだろうか。過去の工程を肯定した対策を立てるのではなく、全面否定でやり直すチャレンジの気持ちが日常にも必要だということが証明された。
 コロナ禍では、誰に指示されることもなく個々が本気になって感染拡大防止を行ったから、当組合員が感染源となるクラスター発生が防止できているのだと思う。今後もこれまでと同じようなスタンスで業務に臨みたい。
《学校給食における問題解決に向けて》
 広島県のパン組合には衛生委員会という組織があり、同業者同士が相互に注意喚起を行う。以前は、同業ということで遠慮し合うことがあって、多少の問題点であれば細かい指摘がされないこともあった。しかし、これでは真の安全衛生が得られず、強化する必要性が生じる。また、技術面や工場としての工夫、設備機器の稼働状況などの情報を互いに発信し合える仕組みを作りたいと考えている。例えば、ある工場では余剰(非稼働)ラックの処分に悩み、ある工場ではラック不足に困っているという場合、情報交換ができれば両工場の問題は一気に解決できる。そのような横の連絡網を充実し、組合の相互メリットを発揮させたい。
 HACCPは、業界スタンダートをどの組合員も採用して取り組んでいる。このスタンダードは中小でも実施しやすいように工夫されており、重要管理点を定め日々実行して記録を残すというHACCPの考え方が採り入れられている。広島県には、独自の衛生認証制度があり、同制度に取り組む際から記録簿を取り続けている企業にとっては、HACCPに移行しても特別なことを始めるという感覚ではなかった。
 朝食・土曜日給食については、特段動きがない。パンの国産小麦化は、広島県東部全体ではないが、福山市では興味が薄いようだ。パンの原材料だけを国産化しても、副原料に輸入食品が入っており、国産化比率向上という目標から見ると効果が少ないという考えのようである。
《塩分濃度について》
 極端な減塩をして「パンは美味しくないからご飯を増やして欲しい」とは言われたくない。継続して減塩パンを食べていると、パン本来の美味しさがその程度の美味しさだと慣れてしまうことが怖い。試験的に作ることは難しくないが、長い目で見てパンの美味しさを誤認されることは避けたい。
《学校給食会との望ましい関係性》
 学校給食は、日本の将来と政府の台所事情を総合して、パン製造業者に主食の製造が委ねられたという経緯から特別な部分があった。学校/学校給食会/パン製造業者という枠組みの中で運用され、米飯給食開始時にもこの枠組みが残っており、パン製造業者は優遇措置を利用して米飯給食も提供するようになった。
 私は、学校/学校給食会/パン製造業者という枠組みが安定供給に繋がり、費用も抑えられると考える。立派な給食センターが建設されると、効率の良い生産設備に目を奪われるが、初期投資やランニングコストを考え合せると、これまでの枠組みを改善しながら維持する方が三方良しになると思う。
《給食事業の将来展望》
 センター化や他業種の参入等で、パン製造業者が弾き出される恐れは否めない。現在のパン製造業者が生き残るためには、その商取引の根幹を知らなければいけない。パン製造業者は、国・県・市の義務・責任・目標は何か、子どもの成長・食育という中で、パンの果たすべき役割は何か、保護者や子供たちがいかにパンを愛し必要としているかを検証し、広報していかなければならない。
 地元のパン製造業者として愛されることも不可欠で、コロナで休止しているが、工場見学を実施してきた。しかし、準備や実施に目に見えない労力を必要とするので、見学動画の配信を模索中で、児童・生徒や保護者、先生に視聴してもらえるような広報活動が必要だと考える。これは、地元だけに留まらず、全日本パン協同組合連合会レベルでも必要なツールだと考えている。

【広島県東部パン組合】
〒722-0035広島県尾道市土堂2-10-3尾道商工会議所内
TEL0848-22-2165
FAX0848-25-2450

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