 佐々木氏
|
 特別賞受賞作品
|
K・YOKOYAMAM(横山暁之介社長)は昨年10月、本社管理室室長の佐々木雅仁氏を取締役に抜擢した。これは、同年4月に横山社長が体系化し開始した「リテイルベーカリー最大の問題点とされる人手不足や後継者難を解消し、夢が持てるベーカリー像を実現し定着させるための新しい人事制度」の一環。
同社はこれまで、働く人のモチベーションを上げることこそ、夢のある職場の実現だと考え、ベーカリーだから仕方がないという精神を捨て、一般企業並みの給与体系や長い休日の取得などにチャレンジしてきた。また、ベーカリ―業界との交流、スタッフの指導、外国人ベーカーの育成などにも力を注ぎ、様々な人々と関わりながら自身の技術や人材育成環境が高められるよう努めてきた。
今回の人事異動は、オーナーシェフが経営し家族が役員という枠組みを打ち破り、新しい風を採り入れることによって、企業としての質を高めるという意図が込められている。
横山社長は「弊社から独立してベーカリーを営んでいる人は何人もいる。しかし、パンが作れるだけでは経営者として不十分。社会性、礼儀、管理能力(資金・生産・店舗・教育・人事・仕入れ等)や継続的なP&D(調査・開発)の実務能力をバランス良く身に付けなければいけない。それらを十分に理解していなければ独立開業に漕ぎ着けても継続は厳しい。K・YOKOYAMAは、日々の業務を通じてこれらのことを学び、皆が切磋琢磨する場所にしたい」と述べた。
新取締役の佐々木氏は、次のように抱負を語った。
漠然とした意気込みや将来像はあるが、具体的に何を何時にどうするという内容はまだ見つかっていない。役員になって責任が大きくなり、私に続く後進を育てなければいけないというプレッシャーを感じている。
店舗の仕事以外で1月に福岡県の専門学校を訪問した。訪問目的は、K・YOKOYAMAで働いている卒業生の近況報告を兼ねた表敬訪問。将来において従業員を安定的に確保することが不可欠で、早い時期から全国の専門学校などと繋がりを持って裾野を広げておかなければならない。首都圏の専門学校でパン製造の授業を担当していることもあり、先生方に各地の専門学校を紹介していただけること。弊社現スタッフから卒業校の先生や後輩などと有効なコミュニケーションが取れること。そのようなことを武器に定期的な学校訪問を行い、K・YOKOYAMAの名を定着させたいと考えている。
専門学校は、年々学生数が減少し、優秀な人材を輩出する確率も低下傾向にあるため、ベーカリーへの紹介機会が少なくなっている。この事情を踏まえるとベーカリーから積極的なアクションを起こさなければ、思うような人材確保が難しくなる。学校からのあてがい扶持を待っている時代ではない。さらに、社長の手腕を発揮していただき事業拡大の促進を考えると、どうしても人材が必要になる。
週に3回、社長とのミーティングを持ち経営的な話をする。今までは、店舗に常駐し商品の売れ具合や製造の見極めをすることが自分に与えられた責務だと思っていた。役員になったことで業務が大幅に変わることはないが、あらゆる場面で『先』を見るように変わったと感じる。このことが非常に勉強になり、他の会社では同年齢で経験できないことだと思う。入社10年で変化したことは一番に収入。生活が非常に安定し感謝している。次に仕事に対するやりがい。質や量を含めて個人の能力が発揮できる環境が整備されたこと。
経営者の一員として仕事をしながら、様々な壁や障害を乗り越え解決して自分の糧にし、会社とスタッフが長く継続できるように導きたいと考えている。
パン産業全体としての出荷量は毎年伸長している。しかし、大手とリテイルの構成比ではリテイルが縮小傾向で、その差が徐々に大きくなりつつある。リテイルベーカリーで働く人たちが独立志向であることは理解できるが、継続しているリテイルベーカリーは一握りであるのが実情。企業としてリテイルベーカリーを考えるならば、経営者の考え方を全スタッフに伝える立場の人が多く存在して然りと思う。今回の取材を通して、佐々木氏のような人材が増えることこそ、リテイルベーカリーの発展に繋がるのだと感じた。
【佐々木雅仁氏】
1978年4月21日生まれ。埼玉育ち。2002年東京都内の専門学校卒業後、大手チェーンベーカリ―勤務。約3年務めた後、同専門学校の助手として4年間勤務。2009年ブーランジュリーK・YOKOYAMAに入社。2010年第19回カリフォルニアレーズンベーカリー新製品開発コンテスト特別賞受賞。2018年10月同社取締役に就任。
前へ戻る