タルマーリー[前編]〈鳥取県八頭郡〉
優良天然菌の降る里で事業を展開

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 タルマーリーは2015年6月12日、パンで積み上げた発酵技術を活かし、野生の菌だけで発酵させるクラフトビール製造を実現するため、鳥取県八頭郡智頭町に移転。旧那岐保育園を借り受け改装し、パン・ビール・カフェの3本柱で事業を展開している。

 同店は2008年、渡邉格氏と麻里子氏が夫婦共同経営により千葉県いすみ市で開業。自家製酵母と国産小麦だけで発酵させるパンづくりを始めた。そして、酒種をつくるための麹菌も自家採取し始めたことで素材の栽培方法が発酵に表れる自然栽培(無肥料無農薬)素材が最も良く発酵することに気づいた。2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の後、より良い水を求め岡山県に移転し天然麹菌の自家採取に成功。「パンを作れば作るほど地域社会と環境が良くなっていく」事業を目標にロール製粉機を導入し、地元産の小麦を自家製粉してパンや焼き菓子の材料に使い始めた。
 現在の立地は、鳥取県南東部に位置し兵庫県や岡山県との県境に近い智頭町。同町は93%が山林で智頭杉の産地としても知られている。森・川・田畑・空。その風景はまさに日本の原風景、田舎の美しさそのもの。
 渡邉格氏(オーナーシェフ)は、1971年東京都東大和市生まれ。23歳で学者の父とハンガリーに滞在。食と農に興味を持ち、25歳で千葉大学園芸学部に入学。「有機農業と地域通貨」をテーマに卒論を書く。卒業後、農産物流通会社に就職したが31歳でパン職人の道へ。格氏ならではのパンづくりを追求し、麹菌採取の道に目覚めた。また、パンクバンドで燃やしたエネルギーを起業後はDIY精神に発展。大工仕事を覚え、可能な限り自力で店の改装を行った。同氏の著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る」経済』(講談社)は、韓国でベストセラーになり、台湾・中国・フランスでも翻訳され、国内外で講演活動も行っている。
 渡邉麻里子氏(女将)は、1978年東京都世田谷区生まれ。幼少期から田舎暮らしに憧れ、環境問題に危機感を持ち、東京農工大学農学部で環境社会学を専攻。日本・アメリカ・ニュージーランドの農家や環境教育現場で研修し、食や農の切り口から環境問題に取組む道を模索。卒論では「女性が農村で生きる可能性」について考えた。卒業後に就職した農産物流通会社で格氏と出会い結婚。農産加工場に転職し販売や広報を担当した後、タルマーリーを開業。販売・企画・経理・広報・総務などを担当。また、1女1男の母として、田舎での職人的子育てを模索中。
 店名の由来は、格(Itaru)と麻里子(Mariko)のそれぞれ一部を引用してタルマーリー(talmary)とした。
 格氏は、酒種との出会いと天然菌の特性を次のように語った。
 これまでは酒種パンを中心にパン作りをしてきた。きっかけは修業時代に読んだ「趣味のどぶろく作り」という江戸時代の製法でどぶろくを作る本。すぐに実践すると上手くどぶろくができ、酵母として発酵させるとおもしろいと思った。そうして、酒種パンが作れるようになったが、修業先のベーカリーはヨーロッパ風のパンが主力商品だったので勝手なことはできず、欧風パンに酒種を合わせることで独立も夢ではないと発起し、酒種パンをメインにしたベーカリーを起業した。その時から、牛乳・バター・卵・砂糖を一切使用せず、天然酵母と国産小麦のみのパンというコンセプトを持っていた。しかし、天然酵母には間違いないが天然菌のみではないと指摘された。酒種に使用する麹菌は純粋培養であるため、そうではない麹菌を使用した方が良いというアドバイスをもらい、麹や乳酸菌といった酵母菌全てを採るようになった。
 イーストは非常に良く働き、失敗がなく安全。天然菌は働かず、腐敗菌等が入り危険だという認識を持っており、麹に関しては調査した上で使用しているほど。これを逆手に取ると色々とおもしろいことが解った。腐敗しやすい作物を使うと腐敗に繋がり、腐敗し難いものを辿り、それを使用しなければならない。腐敗し難い作物とは、無肥料・無農薬を指す。麹を掛け合わせる種は、全て無肥料・無農薬でなければ腐敗に傾いてしまう。従って、菌が腐敗せずに発酵しやすい材料を揃えると、自然に「良いもの」になっていく。
 麹菌採取は、蒸した米を竹筒に入れて置いておく。無肥料・無農薬米ならばきれいに降りてくるが、無肥料・無農薬以外の米ならば赤いカビが付き、すぐに腐敗が始まる。農薬散布後なら真っ黒なカビ、祭りなどで車が平常時より多く通ると灰色のカビが降りる。弱い菌であるが故に、環境や原材料に対して非常にシビア。これを利用することが考え方の根本。JAS有機が良いとか化学肥料が悪いという判断材料は無くなってしまった。有機だからといっても信じられない。化学肥料でも思い通りに発酵するものもある。それらを判断基準にしながら「ものづくり」ができており、新しい基準だが自然界に則っていると言える。今、パン作りに自信を持っており、自然と共存している感覚がある。

【商品ラインナップ(一部)】
《パン》
▽全粒粉酵母の田舎パン=岡山県津山産の小麦を自家製粉。挽き立ての新鮮な全粒粉は香りの良さが格別。粉の旨みと酵母の酸味をじっくり楽しめる正統なハード系のパン。
▽サンバゲット=酵母の酸味がきいたハードなフランスパン。バターやチーズ、肉や魚介類など、しっかりした味の食材と合わせるのが推奨。
▽バゲット・タルマーリー=軽やかであっさりしたフランスパン。そのままでも粉の風味と甘みを楽しめるが、薄く切ってオリーブオイルやジャムをつけたり、横に切れ目を入れ、野菜、チーズなどをはさんだサンドイッチも推奨。
▽タルマーリーの食パン=バターや卵、イーストは使わず、自家製酵母と植物性素材のみでつくったやわらかくふんわりした食パン。
▽蜂蜜ブレッド=やわらかくてふわふわのパン。山口県周防大島産蜂蜜を贅沢に使用。豊かな蜂蜜の香りと優しい甘み、酒種のコクと風味が相まって食べたら止まらない美味しさ。など。
[Webショップ]
▽酒種スコーン3個入り(421円)=酒種で発酵させたしっかり歯ごたえのあるスコーン。ほんのり蜂蜜の香りにカシューナッツのコク。原材料:小麦粉(岡山県産)、自家製酒種(天然菌米麹使用)、全粒粉(岡山県産)、菜種油(オーストラリア産NON-GMO菜種使用)、蜂蜜(山口県産)、有機カシューナッツ・食塩(モンゴル産)
▽パン詰合せ大サイズ(5,400円)=野生の菌だけで自家培養した酵母でパンを発酵させている。ビール酵母を他の酵母と併用し水分量の多い生地を冷蔵で長期熟成発酵させているため、日にちが経ってもパサつかずしっとりとやわらかいことが特徴。冷凍すれば数カ月は美味しく食べられる。など。
《カフェメニュー》
[サンドイッチ]
▽イノシシ肉のハンバーガー=地元産ジビエ&旬野菜をたっぷりふわふわ酒種バンズにはさんだ。
▽旬野菜とメキシカンオーロラソースピタサンド=たっぷりの旬野菜とスパイシーなソースをもちもち酒種ピタにはさんだ。
▽自家製ジャムと豆乳カスタードピタサンド=近隣で採れるイチゴ・ラズベリー・ブルーベリー・イチジク・地元那岐のカシスなど季節ごとのジャムとクリームのデザートサンド。など。
[ピザ(自家製ビール酵母の生地、ペレットオーブンで焼き上げた)]
▽トマトソースとチーズ=智頭産自然栽培トマトを使ったソースとNZ産ナチュラルゴーダチーズ。
▽旬野菜と豆乳マヨネーズ=植物性素材のみ使用。コクのある自家製豆乳マヨネーズと旬野菜の黄金率。
[スイーツ]
▽牛乳アイス=高知県産・完全放牧牛乳で手作り。甘さ控えめでさっぱり。
▽プレーンスコーン=シンプルに美味しい。
▽バナナケーキ=バター・卵不使用だがふわふわ。など。

【タルマーリー】
〒689-1451鳥取県八頭郡智頭町大背214-1
TEL&FAX0858-71-0106
メール:info@talmary.com
▽定休日=火・水曜日
▽パン販売=11〜17時
▽カフェ=平日11〜15時L.O./休日11〜16時L.O.
▽ピザ=平日11〜14時L.O./休日11〜15時L.O.
▽その他=平日パン製造休み、月曜日限定ランチセットあり/祝日パン製造あり、ランチセット

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店舗全景

麻里子氏、スタッフ2人、格氏

店舗内の様子