タルマーリー[後編]〈鳥取県八頭郡〉
ストイックだがホールセールのようなパン目指し
高付加価値を皆で意識し人を呼ぶ

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優良な菌

製紛機

店舗外観
 

ビール樽

カフェの様子

敷地内の庭

 タルマーリーは2015年6月12日、パンで積み上げた発酵技術を活かし、野生の菌だけで発酵させるクラフトビール製造を実現するため、鳥取県八頭郡智頭町に移転。旧那岐保育園を借り受け改装し、パン・ビール・カフェの3本柱で事業を展開している。

 格氏はビール工場の立ち上げについて次のように語った。
 「約10年間のパン作りを通して野生菌の特性で気付いたことがある。それは、もしかすると野生菌は生命力が強いのかも知れないということ。容易に死滅しないため、上手い利用方法を考えたのがビール作り。ビールを作った後にビールの底に沈む酵母の死骸を抜き出し、パン生地に約3%配合すると、天然酵母の餌をどんどん作り出して生地が酸っぱくならない。さらに冷蔵庫で保管し、一週間後に取り出して複温しても餌を作り続けてくれ酵母が増え続ける。具体的に言うと、当店では、月曜日に一週間分の生地を作りドゥコンで保管、前日に出して時間をかけて複温するという製法を用いている。自家製酵母のベーカリーは、イーストフードを使用しないので冷蔵できない。そのため、毎日生地を仕込まなければならず、酵母の調整が大変な作業になる。酵母の調整には、1〜2日かかるため毎日調整しなければいけない。それが一週間に1回になったことで4人体制で製造していた現場が2人で出来るようになった」。
 天然菌の良さは、働かないがズレて働くほか、恋愛をして子供が増える。イーストは、人口密度が高いせいか自己増殖機能が著しく低いことが特徴で、天然酵母の約100倍多く、一気に発酵することが良さだと考えられる。一方、天然菌は増えることが特徴。長いスパーンでミキシングから焼成までを考えるとおもしろいパンができるのではないかと思い研究を重ねた結果、前述の製法を体系化することができた。
 鳥取県八頭郡智頭町の前は、岡山県真庭市勝山に店舗を構えていたが、ビール作り、麹菌採取、水、敷地面積などの理由から移転した。条件を満たす場所を全国で探したのではなく、先に真庭市の店舗を閉めたら噂が広がって、当地から誘致されたという。ビールを作るようになったきっかけは、ビール酵母のバゲットに出会ったこと。
 「今まで食べたバゲットで最も美味しいと思ったのが『ビールのバゲット』だった。このバゲットを作りたい一心でビールを作り始めた。
 ベーカリーのこだわりが商品に反映されていないように思う一方で、ベーカリーのこだわりが市場の価値観を拡大することにも寄与している可能性があり、色々な人が様々なものを作り、市場が多様に溢れている状況が、生活者にとって望ましいことだと思っている。余りにも画一化して売れるものだけを作るようになれば、そこからはみ出す生産者やそれが嫌いな消費者は生きていけなくなる」と格氏は言う。
 7割が美味しくないといい、3割だけ美味しいというようになると、急に形成が逆転し、最近ではあまり美味しくないと言われなくなったらしい。
 パン作りのコンセプトは「ストイックだがホールセールのようなパン」。
 「私が作りたいパンは、非常にストイックだが、ホールセールのようなパンで、やわらかく万人受けする商品。ハード系はいたるところで食べられるようになった。同じ製法でハード系を超越したソフトなパンを作るという一回転した着地点を目指している」
 同店では、ビール以外の飲料でジンジャエールやサイダーなども作っている。
 「ジンジャエールに使用する生姜は、無肥料・無農薬で自家栽培している。商品の原材料で作っていないのはチーズだけ。コーヒーも南米の無肥料・無農薬原種豆を仕入れ自家焙煎している。ビールの製造設備を利用してサイダーも作っている。敷地内の地下水を汲み上げタンクに入れてCO2を入れるとサイダーができる。砂糖はパラグアイのオーガニックシュガーを使用している。妻は、原材料に極めて詳しく、ルートや履歴を辿ることを得意としているため、私が作り、妻が入出荷情報を担当して、ようやくカタチになってきたと思っている」
 タルマーリーは、環境と一体化したものづくりをしている。農薬がかかると麹が採れなくなる農業、水と空気に影響を与える林業など、地域全体で環境循環に取り組む必要があるようだ。
 日本は、都会人が理解できないくらい地方が疲弊している。タルマーリーの置かれている自然環境と周囲の農産物で作るパンに関して格氏は、今後10年の夢を次のように語った。
 「地域で麹のために作るような農産物等を現在の2〜3倍に価格を引き上げ、それを買い取って当店で高付加価値のパンを販売し経済循環をしながら、地域全体を高付加価値化したい。そのためには、私たちがただ作り続けるだけでは生産者たちも理解し難いと思うので、智頭町智頭地域にカフェを作り、映画の上映やイベント等の開催でタルマーリーがどのようなことを行なっているのかや現在の環境状況・経済背景が分かる勉強会を行おうとしている。もし、農薬を止めるという生産者が現れたならば、即2〜3倍の価格で買い取り加工する。加工する体制も並行して準備しており、元プールの場所に麦芽工場を建設する予定。地域ぐるみの活性化を念頭において取り組まなければ先は見えない。高付加価値を如何に作るかを皆で意識しながら人を呼ぶことを考えなれけばいけない」。

【ドリンクラインナップ(一部)】
《ビール》
 智頭町那岐の天然水だけを使い、野生の菌のみで醸造している。麦芽やホップ、スパイスなどは外国産オーガニック、小麦や蜂蜜、フルーツなどはなるべく近隣の生産者から確かな素材を仕入れて使用している。カフェでは数種類のグラスビールを提供。瓶ビールは、大量生産ができないため数種類をタルマーリー店頭のみで販売。
▽レッドゾーンエール=ホップとともにイチジクを煮出し、さらにイチジクで起こした自家製酵母で発酵させ上品な風味に仕上げた。色:赤茶、アルコール度数:5.5%
▽サワーエール=天然の乳酸発酵による「_作り」をしてから本仕込みに入った酸っぱいビール。肉や魚、チーズなどに合わせると酸味がスッキリし料理を引き立てる。色:黄濁、アルコール度数:4.9%
▽セッションエール=アルコール低めの軽いビール。あまり苦くならないようホップを控え、飲みやすく食事に合わせやすい。色:金、アルコール度数:4.0% など。
《カフェメニュー》
▽完全放牧牛乳=高知県産。さらりとした自然本来の味。
▽自家製ジンジャーエール(辛口)=宮崎県産の自然栽培生姜とオーガニックシュガーでつくった自家製シロップに那岐の湧き水でつくった炭酸水を入れた。▽みかんジュース(100%ストレート)=低農薬栽培、愛媛・無茶々園。など。

【タルマーリー】
〒689-1451鳥取県八頭郡智頭町大背214-1
TEL&FAX0858-71-0106
メール:info@talmary.com
▽従業員数=5人(パン製造2人、ビール製造1人、カフェ2人)
▽敷地面積=約500坪
▽建物面積=約150坪
▽商品数=パン25種類(チーズ入り2種類以外食事パン)
◇インターンシップ=タルマーリーで働きながら、智頭暮らしを体験してもらう取組み。地域住民やスタッフと交流しながら森の恵みを活かした事業を体感。給与:無給/勤務時間:9〜17時/休日:店舗に準じる/宿泊場所:タルマーリー従業員シェアハウス/食事:朝・昼食は賄い付き、夕食は自炊(食材支給)/滞在費:0/旅費:上限25,000円往復を支給/滞在に必要な費用:自己負担/詳細問合せは電話かメールで

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