P加治木南州パン
石窯パン工房Siegel(シーゲル)〈鹿児島県姶良市〉
鹿児島県産を中心に国産小麦を使用
新たな製法や商品開発にチャレンジ

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木元社長

店舗外観
 

店内の様子

専務取締役で店長の今井友章氏と石窯

イートインコーナー

 M加治木南州パン(木元繁社長)は、1934年に現社長の祖父が創業、今年86年目を迎えた。元々は工場敷地内に店舗を構えていたが、人口減で客数が少なくなり同市内で石窯パン工房Siegel(シーゲル)を展開。学校給食工場とリテイルベーカリーの厨房を完全に分離してパンを製造している。

 木元社長は4代目。大学を卒業後、洋菓子の魅力に惹かれ洋菓子店での修行を始めた。しかし、学校給食を主体にパンを製造する会社では、従業員も思うように雇用できないため、家業を手伝えと父に言われ、洋菓子も継続するという条件で同社入社を決めたという。
 「その頃から、CVSが現れ始め、質の高い洋菓子を販売するようになって洋菓子業界の競争が激化し、今までのように特別なものではなくなった。このような状況下で、学校給食パン・市販パン・洋菓子を製造する兼業工場では、経営が立ち行かなくなると読み、洋菓子を手放してパン製造(学校給食は米飯を含む)に特化しようと考えた」。
 現在、同社全体の売上構成比は、学校給食が約3割、卸・リテイルを含む市販が約7割。
 学校給食は、姶良市内の小・中学校約30校にパン・米飯を提供。最大食数はパン・米飯合わせて4500食/日。自校炊飯が多いけれど、約7000人の児童・生徒に届けている。
 「以前は、売上構成比が逆だった。特化に当たり、児童・生徒数の減少に伴って『脱給食』をしなければ生き残れないと思ったため、経営方針の舵を切り徐々に市販の比率を高くしていった。それができなければ衰退しかないと思っている。早い時期に舵切りの必要性を感じ、実行したことが86年という会社の歴史を刻めたのだと自負している」と木元氏はいう。
 同社が運営する石窯パン工房Siegel(シーゲル)は、2011年4月にオープンした。『脱給食』を目指したオーブンフレッシュベーカリーの新規店であるため、車社会に対応して広い駐車場を有し、ターゲット客層を主婦に絞り込んだ店舗にしようと考えたという。
 店内には『国産小麦使用の店』として、次のコンセプトが掲示されている。
 「国産の小麦ではパンにするのは難しいと言われてきました。グルテンが弱く重たいパサついたパンで中々美味しいとは程遠いものでした。しかし、長年の改良、研究で外国産に引きを取らない粉ができました。当店(シーゲル)では、国産、県産小麦を使用したパンを提供して行きます」
 木元氏は、シーゲルの誕生と国産小麦を使用した製品作りの経緯を次のように話した。
 「店舗構想を練っている時、MOBAC SHOWでダイユーのスペイン石窯に逢い『これだ』と思いすぐに準備を開始した。ただ、設備のスペイン石窯だけでは物足りなく感じ、製品で差別化が図れないものかと模索していた。
 時期を同じくして、全パン連で学校給食に国産小麦を使用する動きが出始めたため、鹿児島県でもパン用国産小麦を採り入れようと思い、生産農家を探したが見つけることができなかった。県の農政課に尋ねると、生産量を国に登録して実績がなければいけないといわれたため、農家と、は種前契約をして鹿児島県パン工業協同組合が全量買い上げることにした。そうすると、学校給食の国産小麦化が実現するだけでなく、組合から一部を購入することにより組合各社のリテイルベーカリーでも国産小麦を使用した製品の販売で差別化が可能になると思った。
 当初、農家は試行錯誤の連続だった。また、製粉を依頼した熊本製粉もリスクを抱えながらも要求品質を満たす製粉化を成し遂げてくれた。現在では収量も安定し年間約30トンにのぼり、今後も増加する見通しが立っている。姶良市もパン用小麦の生産に乗り出すとしている。農家の台所事情は厳しく、米だけでは思うような収入が得られず、プラスαが必要。パン用小麦を作れば確実に全量買ってくれるという仕組みは願ってもないことのようだ。製パン性も改善が繰り返され良くなり、県や国も製パン用小麦に対して品種改良を推奨してくれている。鹿児島県産製パン用小麦粉は、鹿児島県パン工業協同組合のプライベードブランドなので、組合員のみしか使用が許されず、大きなアドバンテージになっている」
 全組合員が、全て組合PBの鹿児島県産製パン用小麦粉で学校給食パンや市販パンを提供できている訳ではない。製パン用小麦はいくら作ってもらってもまだまだ足りず、さらに収量が増えることにより、大きな差別化が達成でき、組合員の商売繁盛とパン業界の活性化が現実のものになるだろうという。
 「今後、農林水産省とタイアップしながら自給率を上げることを考えると、地産地消ではなくても国内産という枠組みの中で学校給食の国産小麦化は実現できると思っている。ゆめちからと麺用小麦粉を上手くブレンドすることを加えると、さらに国産小麦化を達成する日は近くなる」
 店名の由来は、繁マシゲルマシーゲルで、社長の名前から。
 売れ筋商品は、霧島の温泉水を使用し石窯でじっくり焼いた野菜と牛肉を丹念に煮込んだ自家製フィリングの「牛肉ゴロゴロカレーパン」、「三元豚カツサンド」「やわらかチキン南蛮」などの調理パン。調理パンの具材やフィリングは全て自家製。ほかにも、バターをたっぷり使い岩塩をふりかけた「しおぱん」や、白ワインに漬けたいちじくとクランベリーをたっぷり入れた「ロデブ・いちじく&クランベリー」なども人気がある。
 同店は、スペイン製の石窯を使用。石窯で焼成すると遠赤外線効果で、特にハード系(フランスパン)などはクラストがパリっとして、クラムはしっとりモチモチした食感が特徴。また、あんぱん、クリームパンはふっくらと焼きあがる。
 2020年3月には、加治木南州パン本店の近くにコッペパン専門店を新たにオープンした。コッペパンとフィリングは、本店で製造し運んでいるという。
 「外食店が約1年半で撤退した店舗を居抜きで借りることができた。冷蔵庫・冷凍庫、コンロ、フライヤーなどが揃っていて人を手配するだけだった。注文を受けてから中身をはさむ販売方法だが、通常のコッペパンではおもしろくないので、学校パン給食推進協議会で進めている発酵種と酵素材を使用した配合のコッペパンを作り、学校給食パン導入に先駆けて客に生の声を聞いている。『やわらかくて、今までのコッペパンのイメージが変わった』という評価を得ていることから、学校給食パンに導入できると思っている。
 新型コロナウィルス感染拡大防止で学校給食が休止してすぐの開店だったため、行く末を案じたが、結果として学校給食休止を補う形で会社の利益に貢献できた。自粛で外食を止める代わりに目新しいテイクアウトのコッペパンが受け入れられたようだ」

【M加治木南州パン】
〒899-5215鹿児島県姶良市加治木町本町26番地
電話0995-62-2515、FAX0995-62-6362
URL:http://www.siegel-aira.com/
▽従業員数=正社員、パート・アルバイト合計で32人(本店工場10名、シーゲル15名、コッペパン専門店7名)

【石窯パン工房Siegel】
〒899-5421鹿児島県姶良市東餅田2346-2
電話0995-73-3911
▽営業時間=7〜18時
▽定休日=火曜
▽敷地面積=約500坪
▽アクセス=日豊本線帖佐駅から徒歩約9分、旧国道10号線沿いの優しいカラーの大きな看板が目印

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牛肉ゴロゴロカレーパン

ロデブ・いちじく&クランベリー