coffee Shop YAMAMOTO 嵯峨嵐山本店〈京都市右京区〉
創業の精神に「何も足さず、何も引かない」
家族経営を貫き若年新規常連客を獲得する

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店舗外観

焙煎室

店内の様子

 ー自家焙煎ーcoffee Shop YAMAMOTOは、1969年に山本健司氏が現在の場所で創業した。個人経営の喫茶店が次々に姿を消す中、地域の常連客とその口コミ、SNSでの拡散により人気店として益々来店客数を伸ばしている。

 同店誕生直後の1970年代は喫茶店ブームで、最盛期には全国で165000店舗(Coffee SAKURA豆知識調べ)、市場規模は約1兆7千億円となり、外食産業の10%を喫茶店市場が占めていたという統計がある。また、2019年3月のCVS店舗数は約60000店舗(Garbagenews調べ)で、最盛期の喫茶店は、現在のCVS店舗の約3倍存在していたことになる。さらに、市場規模約1兆7千億円は、昨年のパン製造業総出荷額約1兆7千500億円(経済産業省工業統計)に匹敵する規模。半世紀前に喫茶店で行われていた人々の交流が、携帯電話やメール、SNSなどに遷り変わった。時の流れは止められないが、喫茶店やベーカリーカフェでは、このような地域のコミュニティを再度見直す必要があるのかも知れない。
 今回、嵯峨嵐山本店の店主で次男の山本次郎氏に、健全な生き残り方やこだわり、人気の秘訣などをうかがった。
 山本氏は1974年生まれ。46歳。同店発展の経緯を次のように話した。
 「創業者(父)は、元々寿司職人であったが、酒を提供しない喫茶業に転職し、大阪のジャズ喫茶『バンビ』で修行した。焙煎は独学で身に付けたと聞いている。立地は、創業時から同じ場所で、代々所有していた土地を譲り受けた。時期を同じくして1970年に京都市道187号鹿ヶ谷嵐山線(4車線および歩道=新丸太町通)が店舗西まで延伸。大通りに対面する店舗立地になった。太秦撮影所からも遠い距離ではなく、往年の銀幕スターも来店していただいた。
 私は、父の奨めでUCC上島珈琲Mに入社。一人暮らしをして同社の神戸工場で焙煎技術を習得し、人間力を磨いた。その後、実家に戻り、父にコーヒーや喫茶店経営、こだわりと信頼などを徹底的に叩き込まれた。その時は、両親と兄の4人で本店1店舗を運営していた。上島珈琲時代は、辛いことの連続だったが、今振り返ると貴重な経験ができたと父に感謝している。
 兄も私も、基本的に父のコーヒー・軽食の提供方法や経営方針を継承しているが、それぞれの独自性を発揮することにより相乗効果が生まれることから、下鴨(京都市左京区)に兄の店を出店することになった。2店舗とも敷地内の焙煎室での自家焙煎を店舗のコンセプトにしている」
 続けて、コーヒーや軽食メニューに関する考え方を話した。
 「父は『規模の拡大は考えるな。自分たちでできる範囲を超えるようなことは止めておけ』と言い続けており、兄と2人で父の商魂を受け継いでいる。寿司職人を辞めて、苦労して畑違いの喫茶業を成功に導き、私たち兄弟を育て、商売が継続できる礎を作ってくれた。その考え方や精神が間違っていなかったので、約50余年間という長きに亘り、お客様に愛され今日に至っていると思う。従って、父から学んだことに『何も足さず、何も引かない』ことが、最大の強みだと考える。どのような時代が到来しても、流されずブレずに守り通したい」
 世の中には、500年以上続く「伝統の味」は沢山存在する。500年に比べると歴史は浅いが、それでも50余年間同じ味を守り続けることは簡単なことではない。
 提供メニューは、ブレンドコーヒー7種、ストレートコーヒー10種、スペシャリティコーヒー3種のほか、カフェオーレなどのアレンジコーヒー4種、ホット・アイスドリンク18種。サンドイッチ6種、トースト6種、デザート6種。
 サンドイッチは、創業期から提供していたという。徐々にバリエーションが増え、和牛カツ・ミックス・ハム・ヤサイ・タマゴ・フルーツになった。デミグラスソース、マヨネーズ、マスタード、ドレッシングなどは全て自家製。ミックスサンドのローストビーフには、食べ溢れがないようにゼリー状の特製ソースが使用されている。
 和牛カツサンドは、30年以上前に創業者が和牛に合うソースを開発。黒毛和牛に薄く衣を付けて揚げ、自家製デミグラスソースを塗ったトーストにはさんでいる。パンは、京都の老舗ベーカリー進々堂の食パンを使用。やわらかで肉汁が溢れるおいしさは、たちまち評判になり、現在でも看板メニューの座はゆるぎない。  フルーツサンドは、インスタ映えを狙った仕様ではなく、デビュー以来の形状。これも創業者が試行錯誤を重ねて味と見栄えを完成させたもの。中身のフルーツは季節によって若干異なるが、ホイップクリームのレシピは開発当時と変わっていない。
 「5年ほど前からSNSで紹介されるようになり、急に若い女性の来店客が増えた。最初は原因が分からなかった。若い女性が当店を目掛けて来ることも理解できず、若い女性が気軽に入れる洒落た店でもない。SNSの拡散力のすごさに驚いた」
 店舗内の様子は、創業時から変わらないレトロな内装を残し、ジャズのBGMが流れる落ち落ち着いた空間。今では見ることも少なくなった大型のスピーカーが壁にビルトインされ現役で働いている。現役といえば、曲の再生はCDや無線LANではなく、LP版のレコードをターンテーブルの針から生で再生している。
 コロナによる大きな影響はなかったという。
 「プラスに転じたということはないが、普段コーヒーだけの常連客がサンドイッチをテイクアウトしていただくなど、近隣の常連客に盛り上げてもらった。緊急事態宣言下では、私の顔が硬直していたが、現在では少し笑顔になるくらいになっている」
 店内での飲食とコーヒー豆の販売以外で、卸等は一切行っていない。催事出店などの話も一切辞退している。
 山本氏は、今後の抱負を次のように述べた。
 「現在の味をさらにブラッシュアップしたいと思っているが、急に新しい味に変えることや新メニューを登場させるのではなく、前述のように50余年間引き継がれた味をほんの少しずつ自分の味に変化させ、10年ほど先に『ちょっと美味しくなった』と言われるように自分の味にしたい。また、健康志向や本物志向に沿って原材料を吟味し、糖分・塩分量を少なくして今の味を持続させる日々の探求を欠かさないこと。
 2人の息子が店で働いてくれており、自分自身も新しい感覚が吸収でき大変勉強になっている。まだまだ不透明な部分はあるが、順調に進めば後継者の心配もなく、私が父から受け継いだように息子たちに全てのノウハウが譲れると思っている」
 山本氏の長男健太氏は、将来展望を次のように述べた。
 「今までそうであったようにこれからも家族経営を続けていきたい。常連客を大切にしながら、若い私たち世代の新規常連客を能動的に獲得したい。私や弟が継承することを想定すると、今のうちに地盤作りをしておく必要があると考えている。若い世代にも昭和純喫茶の良さを知ってもらう努力をしなければならない」

【coffee Shop YAMAMOTO】
[嵯峨嵐山本店]
〒616-8376京都市右京区嵯峨天龍寺瀬戸川町9-7
TEL075-871-4454
▽営業時間=7〜19時
▽定休日=木曜日
▽アクセス=JR嵯峨野線:嵯峨嵐山駅/嵯峨野観光鉄道:トロッコ嵯峨駅より徒歩約5分、京福電鉄嵐山本線:嵐電嵯峨駅より徒歩約7分
[下鴨店]
〒606-0864京都市左京区下鴨高木町46-1
TEL075-721-4454
▽営業時間=平日:9〜19時、土日祝:8〜19時
▽定休日=水曜日
▽アクセス=地下鉄烏丸線松ヶ崎駅下車徒歩約11分、下鴨高木町バス停すぐ

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左から、山本耕太氏(次男)、真希夫人、次郎氏、健太氏(長男)

フルーツサンド

和牛カツサンド