BoulangerieKishimoto〈埼玉県所沢市〉
多店舗展開を目指すよりも
人の成長と店舗機能の充実を図る

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Kマーク

スタッフ。左から二人目が岸本氏

店舗外観

 BoulangerieKishimoto(岸本章オーナーシェフ)は2020年10月1日、店舗を改装しリニューアルオープンした。良い意味で街から浮いているベーカリーになり、Kishimotoでパンを購入することが近隣のステイタスになることを目指している。

 岸本氏は、独立開業までの経緯を次のように話した。
 「越谷市の高校を卒業後、近隣のベーカリーで働き始めたが約1年で廃業になり、高校の先生に相談してデイジイ東川口店を紹介してもらった。母にデイジイのことを訪ねると『あなたがいつも食べているパンよ』と言われ、我が家がデイジイのヘビーユーザーだったことをその時に知った。すぐ見学に向かい、一週間後にはデイジイでアルバイトをしていた。それがパン職人を目指す動機になり、倉田氏からパンづくりの基本から応用までと店づくりを学んだ。デイジイで約8年間の修業した後、ボンヴィボンで約2年間、小規模店のノウハウと製パン理論を児玉氏に叩き込まれた。そのような修業を経て2013年4月、30歳の時に独立開業することができた」
 店舗の立地は、駅前ではないが都心に直通するターミナルから1〜2分の場所で、人・車通りの多い道路に面している。
 「埼玉県出身だが、所沢とは縁もゆかりもない。いろいろと物件を見たが、駅に近く大きな団地があって『この場所は売れる』と直感した」と岸本氏。
 競合店は、駅前の商業施設内に大手インストアベーカリーがあり、若干離れているが下町っぽいパン店が数店ある程度。オープン当初は近くに2軒のベーカリーがあったが、ほどなくしてなくなってしまい、同店が影響を及ぼしたかどうかは定かではない。
 同店のコンセプトは、パンも菓子も買え、わざわざ菓子屋に行く必要がなくなり、店のレジ袋を見た人が『洒落た店でパンを買っている』と思ってもらえるようになること。
 「ベビーカーを押して来店されるお客様が多い一方で、年配のハイソな人も多く、来店客の年齢層は幅広い。いずれも比較的高単価の商品が売れているため、今後5年・10年先も飽きずに買ってもらえるよう研鑽し、ブランディングを確立しなければいけないと思っている。あえて街に馴染まず、浮いた存在で在り続けたい」
 商品のこだわりは個々にはあまりなく、生地を食べてもらう商売だと考えていることから、毎日スタッフと意見交換をしながら美味しいパンになる生地を完成させることだという。
 「よく売れる商品は、メロンパンやカレーパンなどで、時間をかけて作ったハード系が毎日爆発的に売れることはない。どこのベーカリーでも売っている商品に磨きをかけて違いを出すことが重要だと考えている。しかし、そのようなことが自分の中では普通で、逆に言えば、全ての商品に対して心を込めて作っているため、ある商品だけ特別な力を入れているということはない」
 同店では、全国のベーカリーを対象にした各種コンテストへ積極的に参加している。
 岸本氏は、昨年6月に開催されたカリフォルニア・レーズン協会主催の「第28回カリフォルニア・レーズンベーカリー新製品開発コンテスト」オールスクラッチ製品部門で最終審査に進出。2日間に亘る計7時間以内に作品を製作し、作品の製作意図や特長などについてのプレゼンテーションを行った結果、特別賞を受賞した。作品名は「大地の恵み」。また、昨年10月「第8回モンディアル・デュ・パン日本代表選考会」と併催された日本アンバサドール協会主催の次世代を担う若手の育成と世界大会への登竜門の場の提供と第8回モンディアル・デュ・パンアシスタントシェフの選考も兼ねる「第4回最優秀若手ブーランジェコンクール」で、同店スタッフの佐土原愛果氏が3位に入賞した。
 大地の恵みについて岸本氏は「素晴らしい賞をいただいたと思っている。ただ、コンテスト用に作った製品であるため、継続した販売は難しかった。若干仕様を変更して再度店頭に並べたいと思っているが、その時期は具体的に決まっていない。今後も、パンとパン関連業界が潤うような商品作りに心掛けたい」
 佐土原氏は「製品のテーマは秋にしました。生地は低温長時間発酵で仕込むことにより旨味が凝縮されたように思います。クロワッサンとは別に自由課題があり、デニッシュとして、チョコレートにヘーゼルナッツを加えたフィリングを包んで焼成しました。半年間で、パン作りの基礎を学びながら、厨房ではサンドイッチ作りを担当し、並行してコンテストに向けた作品作りに取り組みました。とは言うもののオーナーや先輩方には、多大な労力を費やしていただいたと思います。自分ひとりでは、決してできなかったことで、Boulangerie Kishimotoとして全国3位という結果が出せたのだと思っています」
 「新入社員に対して、コンテストに挑戦させることは無謀だと思ったが、本人が積極的に意思表示をしたのでやらせてみた。しかし、大会が近づいても進んで練習しなかったので『やる気がないのなら参加を断れ』と活を入れた。仕事の厳しさとモノ作りの難しさが理解できなければ、どんな仕事に就いても大成できる人間にはなれない」と岸本氏。
 そのほかの人材育成については、個人の主体性に委ねているという。
 「本人がやる気もないのに押し着せのように何かのプログラムに参加させることは行なっていない。個人店の限りある資源と時間を最大限に有効活用するために、自らが時間を作って教えてほしい、習いたいという意思を示したならば、時間を惜しまずに応えている」
 売れ筋商品1位は「究極のカレーパン」。味だけでなく、小まめに揚げ立てを提供していることでも人気を集めている。ガリッ、とろーり、モチッの食感とボリュームはまさに究極。2位は「湯種のクリームパン」または「メロンパン」。
 コロナ禍では、影響があったのではなく、3・4・5月は恩恵を受けたという。
 「大雑把な数字では、対前年比130〜150%。6月頃から落ち着いてきたが、前年比を下回ることがなく9月のリニューアル工事を迎えることができた。リニューアル後も有難いことに130〜150%で推移している。コロナウィルス感染拡大防止対策は、食品を取り扱う店舗として必要不可欠な事柄は万全を期しているが、商品の個包装化は感染者状況に応じてフレキシブルに対応している。当店は、来店客の店内入場を5人に制限しており、この人数制限を厳格に行えば、個包装化の必要性もなくなるのではないかと考える」
 店内には、パンをデザインした『K』マークが掲げられている。これは名前(店名)の頭文字をモチーフに岸本氏自身がデザインしたもので、メガネをかけたバゲットは岸本氏、クロワッサンは夫人をイメージしているという。親しみがあり、非常に好感が持てるロゴマークだと感じた。
 岸本氏は、今後手掛けたい商品と将来展望を次のように述べた。
 「まず、焼き菓子を増やしたい。生地の取り扱いに関しては洋菓子店よりもベーカリーの方が長けているためさらに力を入れるべきだと思っている。前述したようにパンも菓子も買え、わざわざ菓子屋に行く必要がなくなるようにということからもギフトにできる焼き菓子が要る。また、パネトーネも手掛けたい。実現が見えてきたら、手捏ね感が出せるダブルアームミキサーを導入しているかも知れない。
 将来展望は、私がイメージするように人材が育ってきたら、2店舗目というよりもこの店舗で作った製品の販売のみを行う売店をオープンさせたい。2号店・3号店となれば、設備・人材等でリスクが拡大するため規模拡大は考えていない。テレビでも放映されていたように、現在銀行ATMがキャッシュレスの侵攻で使われなくなっているようで、そのスペースの有効利用を考えている。5坪程度の空間にパンを並べて販売のみを行うイメージ。実際に他の商売を行なっている事例もあり、銀行ATMは人が集まるところにしか存在していないことから、パンの売店として充分活かせると思っている。また、売店が具体化すれば、生産量も増えるため店舗と厨房の拡大を図りたい。カフェ併設でコーヒーのサービスも始めたい。少しでも早く、この想いを実現したい」

【Boulangerie Kishimoto】
〒359-1111埼玉県所沢市緑町1-17-9
TEL04-2907-7178
▽営業時間=8〜19時
▽定休日=月・火曜
▽従業員数=正社員4人、パート・アルバイト13人
▽アクセス=西武新所沢駅西口より徒歩2分

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店内の様子

究極のカレーパン

湯種のクリームパン